大阪でも道頓堀川に浮かんだ粋な屋形船で熱演するバンドが見られたということです。
＜河合ダンス＞という芸者さんのバンドもありました。若く美しい芸者さんたちにジャズを教えたのは、杉田 良造というサックス奏者でした。

「なんやむつかしそうやな」と芸者さんたちは最初驚いたことでしょう。そこは何しろ新しいものが好きな大阪人のこと、三味線をサックスやクラリネット、シロフォンに持ち替えて、大いに楽しみながら、待合やパーティで演奏したそうです。あわせてアクロバットやタップダンスも披露するなど、それはもう賑やかなことだったそうです。

＜ダンスが儲かる＞と分かったので、次々と大阪の街にダンスホールが開店しました。
北新地には「パリジャン」ができ、戎橋には「パウリスタ」「パーリジャン」ができ、瞬く間にダンスホールは２０ヶ所に増えました。

ジャズも大いに取り入れられ、ジャズのテンポの良いリズムと情緒的な狂わしげな音楽はたちまち人の心をとらえました。
ジャズは大阪の街を風靡したのです。大阪でジャズがもっとも盛んな時期でした（うらやましい）

でも大阪で爆発的にジャズ全盛期が訪れた原因は、大正末に起きた関東大地震です。
大正1２年９月１日(1923年)、マグニチュード7.9の大地震で関東一円が崩壊しました。死者９万人、負傷者１０万人。政府は戒厳令をしき混乱を避けようとしました。経済界の打撃は深刻でした。火事が起き、娯楽施設も破壊されたのです。
焼け野原になった東京を後に、財界人・貿易商・外人商社員・商売人が関西にやってきました。そして職場を失った多くのミュージシャンも大阪へ職を求めてやって来たのです。同時に文化人や芸術家も大阪に疎開して来ました。こうして大阪に人と富が集中したのです。

人があふれ、商業が盛んになると人は娯楽を求めるようになります。関東からやって来た失業楽士たちを救済しようという思いもあって、道頓堀周辺の カフエや食堂がバンドを雇い入れたのです。
道頓堀、千日前、難波新地一帯の赤い灯青い灯のきらめく道という道には、【ジャズバンド毎夜演奏】 の看板が貼り出されていました。そして、街のどこからもジャズが聞こえていたのです。